馬の表情と感情

馬は表情と仕草で会話する

人と馬は言葉を使って会話することはできませんが、仕草や表情で語りかけてきます。
仕草や表情を知ることで、馬の気持ちを理解してあげることも出来るようになります。

馬はこんなにも感情豊か

嬉しい時
嬉しそうに走る馬

首を上げて、尻尾を高く振り、軽やかな足取りで走ります。

気持ちいい時
気持ちよさそうな馬

ブラッシングなどをされて、気持ちいいときは、鼻をのばします。

驚いている時
驚いている馬

大きく鼻の穴を開いて、鼻を大きくフウフウと鳴らします。

不安で落ち着かない時
不安そうな様子の馬

左右の耳をバラバラに動かします。視線もあちこちを見て定まらず、鼻孔を開き嗅ぐ仕草をします。

警戒している時
警戒している馬

耳を立て、警戒している物や音の方向へ首を向けて、じっとその方向を見つめます。

怒っている時
怒っている馬

険しい目つきで耳を伏せて、顔を前に突き出し、咬みつこうとしてきます。このような時に近づくと、咬まれたり、蹴られたりする可能性があるので注意が必要です。

何かを要求している時
要求している馬

お腹が空いている時など要求する時は、鼻を鳴らしたり、一方の前肢で地面を前掻きしたりします。

1.フレーメン反応

フレーメン反応している馬

馬が頸(くび)を突き出し、上唇を巻き上げている表情をどこかで見た記憶のある人も多いでしょう。
よく「馬が笑っている」と称されますが、この誤解は馬が歯を見せているところからくるのでしょう。よく見てみると、馬の目は笑ってはいません。
この動作はフレーメンと呼ばれるもので、嗅覚と密接に関係した行動です。

馬の鼻腔(びこう)の下側には鋤鼻器(じょびき)と呼ばれる空洞があり、鋤鼻器の内側には、匂いを感じることのできる嗅細胞が多量に存在しています。また鋤鼻器の一方は、鼻腔内に開口しています。
馬がフレーメンをすると、鼻の孔は閉じられ、鋤鼻器の内部が陰圧になるのですが、この時、吸い込んだ空気は鋤鼻器内部に流れ込み、そこに存在する嗅細胞を刺激します。
すなわちフレーメンは、馬が匂いをより鋭敏に感じ取ろうとしている動作なのです。

たとえば、馬の鼻先にたばこの煙を吹きかけたり、アルコールを塗ったりすることでも簡単にフレーメンを誘発することが出来ます。
最も頻繁にフレーメンを見られるのは、雄馬が発情期の雌馬に出会った時です。
鋤鼻器でキャッチされた刺激は、どんな匂いでも、脳の性行動と関連の深い部分に伝達されることが知られています。
これらのことから、フレーメンは「性行動」の一部として発達したものと考えられています。

2.耳によるコミュニケーション

馬の耳

馬の耳はとてもよく動きます。
彼らは左右の耳をそれぞれ独立に、180度の弧を描くように動かすことが出来るのです。
この動きは、馬の耳に付着している10個もの筋肉によってコントロールされていて、馬の耳の動きから私たちは彼らの感情を読みとることが出来るのです。

周囲に何か注目するものがあると、馬はぴたりとその方向に両耳を向けます。
この耳の動きには馬の好奇心が表れていると言えます。
また馬が警戒心を持つと、絶えず耳を動かし始め、馬が威嚇や攻撃の感情を持つと両耳を後ろに伏せます。激しい威嚇の際には正面から耳が見えないほどの状態になるほどです。

放牧されている馬たちを観察していると、こうした耳の動きが馬同士のコミュニケーションの役割を果たしていることがよく理解出来ます。
たとえば社会的順位の高い馬が、自分より劣位の馬を追い払おうとしたときには、耳を伏せて相手の方にぱっと振り向くだけで、その表情を見た劣位の馬は、そそくさとその場を去っていくのです。

3.声によるコミュニケーション

仲間とコミニケーションする馬

馬はさまざまな音声でコミュニケーションを行なっています。
私たち日本人が普通に思い浮かべるのは、声量の大きな「ヒヒーン」という長い「いななき」だと思います。
この声は遠くに離れた馬同士が呼び合うときにしばしば発せられる声です。
馬はいなないた相手が仲間かどうかを、音声のパターンから識別できることが証明されています。

その他にも色々な種類の音声を馬は発します。
たとえば「キュイーン」と聞こえる高いいななき。
これは警告的な意味を持っており、闘争的な出会いや、牡に言い寄られた牝が拒否を示す際などに発せられます。
また母馬が子馬を気遣かっているときや、牡が発情中の牝をさそっているときには「グルグル」という低い声が発せられます。

このように馬は仲間同士でさまざまなタイプのボーカル・コミュニケーションをおこなっていますが、日本語では馬の発する音声は全て「いななき」という一語で表現されてきました。
これに対して英語では長いいななきは「neigh」、高いいななきは「squeal」、低いいななきは「whinny」と、各タイプの音声にそれぞれ名前がついています。
言語に含まれる語彙が、その民族の歴史や生活、習慣を反映していることはよく指摘されるところです。
もしかすると、日本語において馬の発声を表現する言葉が「いななき」だけなのは、日本人と馬との関係が浅く希薄だったのかも知れないですね。

4.前掻き

前掻きする馬

パドックで手綱を持つ人間をぐいぐい引っ張って歩いている馬を見かけることがあります。
こういう馬は「止まれ」の合図がかかると、前肢を地面に叩きつけるような動作、すなわち「前掻き」を示します。物を言わない馬は、様々な行動で自分の意志を表現しますが、前掻きもそうしたボディーランゲージのひとつなのです。

この動作は馬の欲求不満を表しています。
自分は前に出たいのに出させてもらえない時、目の前に餌があるのにそれが食べられない時などに前掻きはよく見られます。
前掻きは、馬が地中の草の根や雪に埋まった枯れ草を掘り出す動作が、本来の目的を失って欲求不満を表す行動へと変化したものと考えられています。

このように、ある行動が本来の目的と関係なく出現するということは人間にもあるのです。
たとえばミスをおかしたりすると、思わず頭を掻いたりします。だからといって、その時に頭が痒くなったわけではありませんよね。
競馬場のパドックでしきりに前掻きをしている馬を「気迫があって好走しそうだ」と見るか、「入れ込みすぎて終わっている」と見るか・・・。
残念ながら、この動作だけで判断するのは難しいようです(笑)

5.尻尾の役割

尻尾で虫を払う馬

豊かな尾をたなびかせて疾走する馬の姿は軽快感に富んでいます。
もしも馬に尻尾が無かったら、いかにも間が抜けた感じになってしまうでしょう。
もちろん馬の尾にはきちんとした存在理由もあります。

尻尾の役割は動物によって様々。太くて長いキツネの尾は移動の際にバランスをとるのに有効ですし、ネズミの赤むけの尾は血流量を調節することでラジエターのように体温調節を行っていると考えられています。イヌは嬉しい時に尻尾を振って感情を伝えています。
このように感情を表現したり、コミュニケーションをするために尾を使う動物もいるのです。
馬も気分が高揚しているときは尾を高く持ち上げるし、恐怖を感じたり、服従を表現するときには尾を両後肢の間に巻き込んだりします。
また、馬の尾は体にとまったハエやアブなどを追い払うためにも大活躍します。
虫が飛び交う季節になると馬はさかんに尾を振るようになります。そばで見ていると尾の届く範囲にとまろうとする虫は確実に追い払われています。

では、尻尾の届かない肩先に止まったアブをどうすると思います?
馬は皮膚をぶるぶる激しく震わせて追い払うのです。
この皮膚の震えは皮下にある皮筋の働きによるものです。皮筋は多くの筋肉と異なり、骨格から離れて皮膚に付着した筋肉で、馬では顔面、頸、体幹の前部にかけて分布しています。そして、尾の届く範囲には皮筋は存在していません。
尾の動きからパドックで出走馬の調子の良し悪しを見分けようとする競馬ファンもいますが、尾の動きだけで判断するのはなかなか難しいようです。

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